第2回 | なぜ“指示通りに動く子”が伸び悩むのか?

正解を待つ子より、「どうしたらできるか」を考える子


Appleで働いていたとき、様々な国の出身者や年齢、バックグラウンドの仲間と仕事をしていて気づいたことがあります。
それは──
「自分で考えて動ける人」と、「言われたことだけをやる人」の間には、大きな差が生まれるということです。


どうして指示待ちタイプは評価されにくいのか?

Appleでは、ガイドラインを守ることは当たり前。(いわゆるマニュアル通り)
社内で評価されるのは、「前例のない問題や、予期せぬ事態にどう対応するか」を実行できる人でした。
考えてみればそうです。指示を守ることは重要ですが、人は指示によって考えることをやめてしまう副作用もあります。

実際、上司からはよくこう言われました。

“What do you think about it?”(君はどう思う?)
“How would you solve it?”(どう解決できる?)
“What do you want to do?”(どうしたい?)

「考えを聞かせてくれ」「どうやって解決する?」「どうしたい?」
仕事中に起きる問題は、大抵ガイドラインに正解は書いていません。だからこそどう対応するのか迷ったり、考えたりします。そういう時に上司や先輩、時に同僚からの問いかけに対して、ただ沈黙してしまう人は、次第に自ら姿を消していきました。

一方で、完璧じゃなくても自分の考えを持ち、自分の足で動ける人は、どんどんチャンスを手にしていきました。

実際にApple Storeで起きたクレームと対応

時代はiPhone 4が発売されたばかりの2010年にまで遡ります。その頃私は修理の部署に配属されていました。
Apple社のiPhoneはiPhone 3GSという機種がヒットした後、iPhone 4が新しいユーザー層を取り込んでいた頃です。次第に顧客にもiPhoneの魅力が伝わり出していました。Apple Storeには初めてiPhoneにしたという顧客も多く来店し、どの店舗でも毎日テーマパークのような来店状況が続きました。そんな時に非常に多い相談が製品の外観に対するものでした。

「傷がついてる」「曲がっている気がする」「液晶の色味がおかしい」

Apple社は日本での販売歴史も浅く、顧客が製品に慣れていない部分もたくさんありました。(傷ではなくデザインだったり、明らかに不適切な使用で傷んでいたりしていた)
多くの人が訪れる中で、画面破損のクレームにきた顧客に、あるスタッフがとった行動があります。

「お怪我はありませんでしたか?」

最初の何気ない一言でした。それまで自分の不注意や、来店する手間、製品の体験に不満を重ねていたであろう、真っ赤な顔をしていた顧客が、一気に顔が和らいだ瞬間でした。

このスタッフに後に聞きました。なぜ、画面を割れている問題を早急に解決することよりも先に、顧客の心配をしたのか?と。
するとこう答えました。

「自分がそうされた方が良いと感じたからかなぁ」

マニュアルにはこういうことについてはは書かれていません。もちろん上司からも指示はありません。すべての顧客にこのような身体の心配から入っているわけでもありませんでした。相手を観察し、今自分が取るベストを考えて動いたということでした。

即座に機転を効かせたエスコート

まだ改装前のApple銀座店(2015年ころ)での出来事です。Apple Storeの店内はシンプルで大きなテーブルとその上にiPadやMacなどが展示されているだけです。床はイタリアから取り寄せている大きなタイル状の石材。転んだらとても痛そうです。テーブルも角は尖ってますので、つまづくとちょっと厄介です。その日ある白杖をついた男性が入店しました。彼は目が見えないようで入店するとすぐにスタッフに話をし、腕を貸してほしいことを伝えました。目当ての製品説明を受け、また来店するということでお店を出ました。

しかし、お店の前で立ち止まってしまいました。もしかしたら、銀座に来ることはあまりないのかもしれません。どちらが駅なのかわからないようで、少し戸惑っていました。そこで、あるスタッフがすぐに駆け寄りました。男性と少し話をし、一緒に地下鉄の入り口へ歩いていきました。

この行動は一見して、普通に見えるかもしれませんが、とても興味深い行動と思いました。彼は、お店の前で立ち止まった瞬間に上司に、「もしかすると、銀座の歩道に慣れていない可能性がある。道案内をしてもいいか?」とすぐに報告と相談をしました。マネージャーに自分のこれからの行動を知らせ、周りのスタッフの状況や、その次のステップについても先に共有をし、男性に駆け寄りました。その後スムーズに駅までエスコート。ものの数秒でこれらのタスクをこなしていました。

こういった行動や発言は決してガイドラインに書かれているものではありません。あえていうのであれば、ガイドラインにはこう書いてあります。

顧客の体験を最高にすること

Appleのスタッフは顧客体験を最高のものにしていくには、どういった対応をすることがベストなのかを自分で考えています。だからこそ、マニュアルがないのです。マニュアルがあれば、顧客体験を考えることなく、マニュアルを徹底することにフォーカスするからです。


これは子どもにも当てはまる?

はい、まったく同じです。
子どもでも「言われたことはできるけど、自分で考えることが苦手」というタイプの子は多くいます。

ですが、それではこれからの社会で生きていくのは難しい。

  • 教科書に答えがない問題
  • 答えが1つではない問い
  • 誰も正解を知らないテーマ

こうした問題に対して、「どうしたらできるか」を考え、試行錯誤できる子は、社会に出てから必ず強くなれます。
実際にAppleではよく上司に聞かれたのは「君の判断を尊重するから、考えを聞かせてほしい。責任は取るよ」ということです。
クレーム、イレギュラーで他部署に確認する必要があること、顧客にお願いをしなくてはならないこと、色々な判断を問われるシーンでこの言葉は重く、また自分のなすべきことを考えさせられます。だからこそ私は、子どもたちと関わるときにできるだけ子ども達自身の口から、考えを引き出すことを心がけています。


だから今、「非認知能力」が注目されている

「考える力」「発信する力」「やり抜く力」──
これらはすべて、非認知能力と呼ばれる力です。しかし、Appleでは「能力」という言い方はしませんでした。近い言葉で「コンピテンシー」という言葉がありました。
このコンピテンシーについては1つの分厚いPDFにまとまっているのですが、いわゆる「行動のガイドライン」です。例えば「コラボレーション(協働)」というスキルの項目には「定義」や「不十分なスキルの例」「優れたスキルの例」「過剰使用の例」「スキルが低い場合の例」「このスキルを開発するためにどういった考えや行動をするといいか」などが詳しく書かれています。(アメリカのコーン・フェリー社の人材育成ツールです。)「非認知能力」というのはこの「コンピテンシー」を実現するために助けてくれる力になります。スキルは大人になってからでも身につけることができます。

少し話がそれましたが、“スキル”を身につけるにあたり、能力が元からある方が明らかに便利なのですね。そして、この能力というのが、点数には表れにくいけれど、問題解決や創造的な行動に直結する“根っこの力”です。
これらは、大人になってから急に身につくものではありません。


クラフトマンアフタースクールの実践

クラフトマンでは、子どもが「指示を待つ」のではなく、自分で考えて行動する体験を日常に散りばめています。

たとえば、Learning Friday(探求型学習プログラム)ではこう聞きます。

「どんな形にしたい?」「どうしたら立体にできるかな?」「どんな不便が家にある?」

大人が正解を教えることはしません。
あえて「考えさせる」「工夫させる」問いを投げかけます。

子どもたちは最初戸惑いながらも、少しずつ「自分で決めて動く」経験を重ねていきます。
その結果、自分のアイデアがカタチになったときの目の輝きは、まさに“未来のリーダーの芽”です。

設計中の子ども

最後に

「言われたことはやるけど、それ以上のことはやらない」
そんな子どもが、これからの社会で埋もれてしまうのは残念なことです。

だからこそ、子ども時代に必要なのは──
自分の頭で考えて、動ける力。

それを育てるのが、私たちクラフトマンアフタースクールの使命です。

次回は、「“非認知能力”がキャリアを左右する時代」について、さらに深く掘り下げていきます。

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